月まで三キロ(伊与原 新/著)
小説を読んで欲しい想いは強くあります。
理由のひとつは、感情が動くからです。
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脳を錯覚させてくれるから、というのもあります。
「地球から月まで38万キロある、と言われればそういう風に見える。だが3キロ先と言われればそう見える」
ここ好きな一節です。 byこんぶ店長
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全6編を収録したこの短編集、それぞれに多彩な魅力に富んでいて、ハズレはりません。
人気は「エイリアンの食堂」。舞台はつくば市にある食堂。ここは妻を亡くした男が切り盛りする定食屋なのですが、
「エイリアン」とは、そこに来る風変わりな女性客。毎晩決まった時刻に来店しては、ひとりで定食を注文する。
男の一人娘の鈴花はひそかにあだ名をつけるのですが、はたしてこの女性の素顔とは。
プレアさんはもとの澄まし顔に戻り、ルーペのひもを首にかけた。
「(前略)これさえあれば、わたしは、どこにいても大丈夫」
「どこにいても?」
「そう。ジャングルでも砂漠でも、工場のラインでもネオン街でも。このルーペをのぞけば、そこにわたしの本当の居場所が見える。
これをもらった頃のわたしに戻れる。わたしがわたしでい続ける勇気をくれる」
毎晩ひとり、定刻に定食だけを食べて帰る「プレアさん」は、世間的には孤独な女性にみえます。
でも、読み進めるうちに、「ある情熱」が彼女の芯に燃えているのがわかってくる。
そして、すべてが明らかになるとき、登場人物たちはみな、今まで想像もしなかった関係性のなかに、
自分を発見することになるのです。
人物たちの変化に心うるおう物語。お楽しみください!
【BOOK DATA】
「この先にね、月に一番近い場所があるんですよ」。死に場所を探す男とタクシー運転手の、一夜のドラマを描く表題作。食事会の別れ際、「クリスマスまで持っていて」と渡された黒い傘。不意の出来事に、閉じた心が揺れる「星六花」。真面目な主婦が、一眼レフを手に家出した理由とは(「山を刻む」)等、ままならない人生を、月や雪が温かく照らしだす感涙の傑作六編。新田次郎文学賞他受賞。
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